舞台『天球儀 -The Sphere-』初日感想

ここに載っけている感想は,いつものことながら,てんでバラバラの感想です。


2016年8月12日(金)初日観劇。


(以下,ネタバレ含みます)


強烈に頭殴られる感覚はない。
頭ひっくり返されることもない。
よくわからない,心地よい,ふわふわとしたら,悲しさに包まれた。
終わったときはそんな感じでした。
舞台『Equal』ときは,ガーンと殴られたような感覚だったのですが,それよりも,もっと穏やかな気持ちでした。


ただ,ただ,蓬茨奏音と富さんの「これから」の,幸せを願う。


いや,死を暗示されてるし,富さんに至っては,ラストシーンではもうどこにもいないのかもしれない。
でも,あの2人の,そして6人の,幸せを願う。
そんな気持ちでした。


でも,
感想を少しずつ書き止めていくと,いろいろこじらしてきて,「あそこはどういうこと?」「あれってこういうことだよね!」などと湧き上がってきました。ああ,不思議な舞台です。



以下,感想をぽつぽつと。
ツイッターに書いたことも交えます。


●物語について
○蓬茨奏音(ほうしかのん)
蓬茨奏音は母を殺した。
彼の死も,おそらくは自殺か,自殺に近い事故なんだろうか。
父が彼を蘇らせたのは,贖罪なのか,後悔なのか,真相を知りたかったからなのか。


「蓬茨奏音の葬儀を行う」と,6人に招待状を出す,彼自身の心境はどのようなものだったのだろう。


蓬茨奏音と7人の関係は,どんなものだったのだろう。
7人にとって,蓬茨奏音はベースなのか,前世なのか。



音楽における「カノン」という技法をよく知らなかったのですが,「カノン」は「追走曲」のことなんですね。
「ある声部の旋律を、他の音部がそのまま忠実に模倣しながら追いかけていく、対位法的な楽曲形式、または楽曲。追復曲」(出典:デジタル大辞泉
繰り返される人生,繰り返される想い,ということでしょうか。
まさか,名前からネタバレだったなんて。


舞台冒頭で,7人が,その世界について説明するところ,7人が声を合わせるので,少し聞きづらくて,「主役1人が述べてもいいのにな」……となんとなしに思ってたのですが,
もしかしたらこれは「7人が同一人物である」という演出だったのかと,舞台後半で気付いてゾワッとしました。
彼らは,それぞれの人物であり,みな蓬茨奏音でもあるのか。




○7人の人生
私がいちばん辛かったのは,「22年前,脳死になった7人は,誰からも弔われず,死んだことにさえ気づかれない」,ということでした。
7人が集まったのは「蓬茨奏音の死を悼むこと」でしたが,それ以上に,7人の1度目の死を,誰か悼んであげてほしい……


また,その死のあり方,あるいは周囲環境は,その後の人生にも影響を与えているということなのだろうなあ。
それはつまり,蓬茨奏音のスフィアをベースとしていたとしても,1度目の人生になぞらえた生き方をしてきたように思えたのです。


春海:交通事故死
出口:うつぶせ寝による窒息
大師堂:転落死
國枝:溺死
というのは,基本的に事故で,その後の人生もあまり大きな波乱はないような気がする。


でも,
鏑木:学校の窓から転落死
剛立:喧嘩に巻き込まれて撲死
富:虐待によっての死


を負った3人は,どこか暗いものを背負っていて,なんか,なんか,……辛い。


富さんは,「生まれた時から悲しみを背負っている」と言っていたけど,春海はそれに対してきょとんとしていたので,その悲しみは,蓬茨奏音の記憶ではなく,富柊子自身の悲しみなんだろうか。いや,蓬茨奏音の後悔が,富さんの2度目の生に,そんな影響を与えているのか。



蓬茨奏音のスフィア(をベースとしたスフィア)を,脳死の体に植えこまれた彼らは,一体何者なんだろうか。
いち早く,そのことを知ってしまった富さんは,そのとき,何を想い,何に気付いたんだろう。




○晴れない謎
動物頭の夢が途中に挟まれていますが,あれは一体何だったんだろう?
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の引用がありましたが,それのイメージ?



●キャスト
新垣里沙がこんなに素晴らしいなんて。
もともとファンなので,ファンとしては「こんな素晴らしい役を,彼女に演じさせてくれてありがとう」と,心の底から思います,


可愛らしく,聡明な富さん。
でも,ふとした影と,その中に秘めた蓬茨奏音。
ただ1人,山荘に残る彼女は,蓬茨奏音……なんだよね。
「そして,誰もいなくならなかった。……富柊子以外は」と思いつつ,でも,富さんがまだいてくれることも願ってしまう。


いろんな解釈,いろんな「あのあと」があると思うのですが,
私は,願わくば,蓬茨奏音を弔って,蓬茨奏音の死を飲み込んで,もう一度,富さんとして生き直してほしい。
どうか,どうか幸せに。

と思っていたら,パンフレットで新垣さんが,似たようなこと書いていて,もうダメでした。ああーー蓬茨奏音ーーー富さんーーーー。



ところで,新垣さんは,もともと,どことなく少年性をもっているような気がしていました。
とってもキュートな女の子で,かっこいい女性。でも,その中に「いたずらっぽく,素直な少年」が住んでいるような気がしていました。
それは,『シンデレラ the ミュージカル』の王子でも溢れてたし,『リボーン』のジャンヌの凛々しさにもありました。


それを,今回は「女性の中に蘇った未完成な少年」として,
新垣里沙という女優の中に,女性性と少年性が混じりあっていて,ああ,素晴らしかった。
もっともっと,この人を観たいと思った。
初めて観たときは,小さな女の子だったのに,こんなに心揺さぶる女優さんになるなんて。




他のキャストさんも,とても魅力的でした。
フラットな存在の狂言回し,春海。翻弄される姿が,この不穏な舞台の要だった。
突き抜けた明るさの出口。バカっぽいセリフが多いけど,妙に魅力的。
頼れるお姉さんポジションかと思いきや,様ざまなアクセントの大師堂。緩急の差が素晴らしかった。
マッシュ鏑木!!!!!!
怖いおっさん,剛立。割と本気で怖かった。役者さんすごい。
穏やかな國枝。でも食えない不思議な人。


舞台を観る前から,「強者ぞろいなんだろうな」という印象があったのですが,遺憾なく発揮されていました。
贔屓目からも,物語の舞台装置からも,新垣さんばかり語ってしまいますが,みなさんとてもよかった。いつまでも掛け合いを観ていたかった。


*****


とりとめのない感想でしたが,初日を見終えた気持ちでした。
ああ,とても素晴らしい舞台だった。見終わった後,じわじわとそれを実感して,たまりませんでした。